リテールメディアの拡大ガイド

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リテールメディアは、多くの小売企業にとって魅力的なビジネスチャンスであり、ブランドにとっても顧客基盤を拡大し、収益を増大させるチャンスとなります。そして、この新たなビジネスチャンスを生かすためには、勝てるリテールメディア戦略を確立する必要があります。

本カスタムレポートでは、市場の主要トレンドを分析し、小売企業がリテールメディア戦略を最適化するための推奨事項を提示します。尚、本レポートは、2022年8月に米国を拠点とする小売企業を対象に実施した当社独自の調査による知見に基づき、主に以下のトピックを取り上げています。

・リテールメディアへの広告予算配分の現状
・収益増大要因としてのリテールメディア
・新規参入企業との競争激化
・リテールメディアネットワークの統合によるメリット

本レポートは、リテールメディア・ソリューションを提供し、小売企業のデジタル広告費の収益化と顧客ロイヤルティの確立を支援する小売テクノロジー・ソリューション・プロバイダーのSwiftlyの協賛によりお届けします。

EXECUTIVE SUMMARY

Coresight Researchでは、2022年の世界のリテールメディア市場は2021年比80%増の751億ドルになると予測しています。本カスタムレポートでは、市場の主要トレンドを分析し、リテールメディア戦略を最適化するための小売企業向けの提言を行います。

・広告予算のうちリテールメディへの比重が上昇:リテールメディア広告は、潜在的な顧客へリーチしてつながりを促し、データに基づくインサイト提供に役立つため、ブランド広告主は、リテールメディアにより多くの広告費を投じています。

・リテールメディアによる収益増大:小売企業は、リテールメディアネットワーク(RMN)を収益性の高いチャネルとして認識しています。利益率の高い広告ビジネスを収益源に加えることで、利益率の圧迫に対抗することができます。

・新規参入企業との競争激化:小売企業は、サードパーティ配達企業(DoorDash、Instacart、Uber Eatsなど)やEコマースマーケットプレイス(EtsyやWalmart Marketplaceなど)など、非小売企業との競争激化に直面しています。

・統合されたネットワーク提供の必要性:小売企業は、オンサイトRMN(小売企業のネットワーク内に設置された広告)とオフサイトRMN(小売企業のネットワーク外に設置された広告)の両方を使用して、顧客リーチを拡大し、統合されたネットワークを提供する必要があります。

What We Think

近年、リテールメディアは、小売企業にとって収益性の高いチャネルとして浮上しています。より多くの広告主やブランドが様々なRMNと提携し、展開を拡大するにつれて、このチャネルの必要性は今後も高まり続けると思われます。小売企業は、ブランド広告主が適切な顧客に適切なタイミングでリーチできるよう、測定可能で収益性が高く、拡張性のあるリテールメディア・ビジネスの構築に注力する必要があるでしょう。

INTRODUCTION

リテールメディアは、多くの小売企業にとって魅力的なビジネスチャンスです。リテールメディアとは、ブランドが小売企業のデジタルおよび物理的なチャネルを利用して、商品を紹介し、認知度を高め、ひいては顧客ベースを拡大し、収益を上げるための進化した広告手法のことです。これらの広告は、店舗やアプリ、Eコマースサイトでの表示や、ソーシャルメディアプラットフォームなどの外部チャネルで共有されます。

本レポートでは、2022年8月にCoresight Researchが実施した米国小売企業への独自調査に基づき、リテールメディア市場の主要トレンドを分析し、勝てるリテールメディア戦略を構築するために必要なツールについて概説しています。

尚、本レポートは、小売企業がデジタル広告費を収益化し、顧客ロイヤリティを構築するためのリテールメディア・ソリューションを提供するSwiftlyの協力のもとお届けします。

市場規模と機会

年々変化する個人情報保護の中で、リテールメディア市場は顧客データを活用し、期待できる収益の柱となるべく、継続的な成長を続けています。小売企業が活用するファーストパーティの顧客データは、サードパーティデータに基づく広告を取り巻く複雑なプライバシー問題の影響を受けないため、ブランド広告主にとってより魅力的なデータとなっています。また、増大する運営コストを補い、顧客とのデジタルな関係の構築を促進することができます。

・Eコマース大手のAmazonのリテールメディア事業は、2022年第2四半期に18%の収益成長を達成しましたが、同時期のオンライン販売収益は4%減少。リテールメディア事業の高収益が、同社の収益を支えています。

ブランドサイドからみると、多くのブランド広告主が、小売店のデジタルおよびフィジカルのチャネルを活用して自社製品のプロモーションを行い、購入時点により近い場所に広告が掲載されることで、売上が増加することを期待して、広告費をリテールメディアへ移行しています。また、より透明性の高い結果を提供するデジタルチャネルに消費者と投資額を移行させ、広告投資の費用対効果を総合的に測定したいというブランドの期待にも応えています。

消費者データを収益化し、利益率を高めたいという点から、ほとんどの小売企業はリテールメディアを提供するか、リテールチャネルを集約する組織化されたネットワークを提供する企業との提携を行っています。リテールメディア・ネットワーク(RMN)とは、小売企業が所有するデジタル広告事業で、ブランドが小売企業の様々な販売チャネルで広告を出せるようにするネットワークのことです。Amazonは、Google、Facebookに次ぐ第3位のデジタル広告プラットフォームであり、そのリテールメディア事業は成長を続けています。同社のCFOであるBrian Olsavsky氏が2022年第2四半期の決算説明会で述べたところによると、同社はリテールメディアの収益が今後も力強い成長をすることを見込んでいるといいます。

Coresight Researchでは、2022年の世界のリテールメディア市場の総額は751億ドル(2021年比80.1%増)になると予測しており、最も急成長する広告チャネルの1つであるとしています。

図1. 世界のリテールメディア広告収入(10億米ドル)

出典:Coresight Research

リテールメディアに関する分析

リテールメディア市場の動向

  1. リテールメディアへの投資が増加

リテールメディアは、特定の消費者層にリーチして接点をもつことができ、適切なタイミングで適切な顧客にアプローチすることができます。洞察に満ちたデータを得ることができるため、多くのブランド広告主は、リテールメディアへの支出を増やしています。2022年6月にマッキンゼーが実施した調査によると、82%の広告主が今後12カ月間にリテールメディアへの支出を増やす予定だといいます。

多くのブランド広告主は、顧客リーチを拡大するために、複数のRMNと連携しています。米国の市場調査会社Path to Purchase Institute(P2PI)とフランスに本社を置くグローバル広告会社Criteoが2022年5月に実施した調査によると、CPG(消費財)企業の約80%が3つ以上のRMNと連携していることが分かっています。

リテールメディアでは、クローズドループのレポートにより、広告費の効果を購入時点まで測定することが可能で、メディアキャンペーンとリアルタイムの売上を関連付けることができます。キャンペーンごとに、クリックスルー率、クリック単価、売上高、商品ごとの広告の費用対効果(ROAS)などの重要な属性を測定することができ、このような利点を実現するために、多くの大手ブランドがRMNへの投資を増やしているのです。

・2021年5月のNewFrontsカンファレンスで、Kellogg North Americaの元CMOであるGail Horwood氏は、顧客行動の変化に対応するため、リテールメディアへの投資を増やすことを発表しました。

・Reckittは2021年、リテールメディアを活用したリターゲティング戦略を推進し、オーストラリアで投資収益率(ROI)を2.5倍に向上させました。2022年3月の同社の発表によると、Reckittブランドの1つであるDettolは、リテールメディアキャンペーンが成功し、売上を200%増加させたといいます。

・リテールメディアは、Mondelez Internationalにとって不可欠な戦略ツールとなっています。同社のオムニショッパー・アクティベーション・戦略パートナーシップ担当地域副社長のSteve McGowan氏は、P2PIとの2021年10月のインタビューで、「特定のターゲットとなる買い物客との接点をもつのに役立っている」とし、「リテールメディアによってメッセージングをパーソナライズし、クローズドループの売上アトリビューションの恩恵を受けることができている。」と述べています。

  1. リテールメディアは収益の拡大につながる

小売企業は、労働力不足、インフレ、サプライチェーンの問題により、コスト全体の増加に直面しており、中でもEコマースやマルチチャネルの小売企業は、配送やフルフィルメントのコストによる圧迫に苦しんでいます。そのため、利益率の低下に対抗するため、利益率の高い広告ビジネスを収益源に加えるリテールメディア機能を拡充させるなど、これまでにない方法を見出しています。

独自のRMNを立ち上げた小売企業には、Best Buy、Carrefour、eBay、Gap Inc、Home Depot、Lowe’s、Kohl’s、Kroger、Macy’s、Michaels、Nordstrom、Sephora、Target、Ulta Beauty、WayfairおよびWilliams-Sonomaなどがいます。そして、需要の高まりに対応するため、同分野は今後も爆発的な成長を遂げる態勢にあります。

現在、多くの小売企業がリテールメディア機能を提供し、RMNを立ち上げていますが、リテールメディアがブランド広告主に提供する機会についての多くは、まだ表面的なものに過ぎません。

・BCGが2022年3月に発表したレポートによると、2026年までに予測されるリテールメディアの収益の60%~70%は、過去の取引額を上回る純新規のものであり、今後も新規小売企業がリテールメディアに参入することが示唆されています。また、今後数年間、リテールメディア業界では、Amazonや新規参入企業よりも小規模な小売企業が急速に成長するとしています。

ホームページのディスプレイ広告、スポンサー広告、非エンデミック広告などを通じて、リテールメディア機能を構築・拡大し、さらに多くのブランド広告費を獲得するチャンスはまだまだ大きなものがあると思われます。ファーストパーティの顧客データをより効果的に活用し、テクノロジーパートナーと提携してその機能を強化することにより、ターゲットを絞ったリテールメディア体験を提供し、ブランドパートナーの費用対効果を向上させ、CPM(Cost per mile=1000インプレッション当たりのコスト)を高く設定することが可能です。

・2021年10月のCoresight Researchの調査によると、米国と英国の消費者は、ブランドや小売企業によるリテールパーソナライゼーションが充分でないと感じています。米国と英国に拠点を置くブランドと小売企業の約71%は、自社のマーケティングのパーソナライゼーションが優れていると考えている一方で、同じように捉えている消費者は34%に過ぎませんでした。

Coresight Researchの2022年8月の調査によると、現在リテールメディア機能を持つ米国の小売企業のうち52.6%が、10%以上の年間収益の伸びがリテールメディアに起因するとし(図2参照)、55.7%が年間EBITDAの伸びの10~30%がリテールメディアに起因するとしています。

図2. リテールメディアによる年間収益成長率(回答者の割合)

(図内の訳、コメント「全体の半数以上の小売企業が、10%以上の年間収益の伸びがリテールメディアに起因するとしている」)

対象:リテールメディアを運用している米国小売企業194社

出典:Coresight Research

これらの収益の持続的な成長を確保するために、小売企業は、自社と取引するブランドに対してROI(投資収益率)を示し、広告費の効果を、透明性を持って測定できるようにする必要があるでしょう。

  1. リテールメディア市場の競争激化

成長を続けるリテールメディア市場は、小売企業だけがプレイヤーではありません。消費者と接点のあるその他のビジネス、つまりサードパーディ配送企業やEコマースマーケットプレイスも競合相手となっています。

DoorDash、Instacart などのサードパーティ配送企業は、日々多くの取引を行っており、膨大な顧客データを蓄積しています。こうしたデジタルファーストの企業は、顧客データを収益化することで、食料品配送事業の運営コストの上昇を相殺しようとしています。

・米国の食料品配送会社のInstacartは、2022年にリテールメディア部門Instacart Adsをカナダに拡大する計画を発表しました。同社は、人件費や燃料費などのコスト上昇により収益低下傾向にある中核の食料品配達事業を支えるため、リテールメディアの収益を拡大させていくとしています。

eBay、Etsy、Newegg、WalmartマーケットプレイスなどのEコマースマーケットプレイスも、サードパーティ配送企業と同様に、毎日数百万件の取引を処理しているため、豊富な顧客データを蓄積させています。これらの仲介業者が収集するファーストパーティデータは、広告主やブランドが適切な場所で適切な顧客をターゲットにするために不可欠なものとなっています。

・2021年10月、米国のNeweggは、2019年にMicrosoftに買収されたリテールメディアプラットフォームのPromoteIQと提携し、リテールメディアを構築し、ブランドへNeweggでの製品プロモーションと売上向上の機会提供を開始しました。

・eBayは2022年3月の投資家向け説明会で、2025年までに広告収入を20億ドルに増やす計画であることを発表しました。同社のグローバル広告担当副社長兼ゼネラルマネジャーのAlex Kazim氏は、広告事業に注力することで、購入者をサイト外に誘導する従来のサードパーティ広告への依存度が下がったと述べています。

仲介業者が独自のRMNを立ち上げたことで、小売企業はリテールメディアへの投資を拡大せざるを得ない状況になる可能性があります。そのため、現在のリテールメディア戦略の拡張を再考している小売企業は、市場における競争および様々なリテールメディアの種類と戦略について理解する必要があるでしょう。

リテールメディアの種類

小売企業が消費者へメッセージを届ける方法としては、オンサイト(自社メディア)とオフサイト(社外メディア)の2つがあります。

オンサイト・リテールメディア

アプリやウェブサイトなど、小売企業のネットワーク内に配置されたメッセージであるオンサイトのリテールメディアは、最も一般的で広く採用されているタイプのリテールメディアです。これらのメッセージは主にディスプレイ広告とスポンサー広告で、コンテキストと関連性によって駆動され、デジタル店頭、モバイルアプリ、実店舗で展開されます。広告は、以下のようなAmazonの例に見られるように、ウェブページの上部など、目につきやすい場所に掲載されます。

Amazonの検索結果ページに、広告主であるArm&Hammerがオンサイト・リテールメディア内でバナーとして表示

出典:Amazon.com

図3に示すように、現在リテールメディアを提供している小売企業のほぼ5社に3社が、何らかのオンサイト機能を有しています。当社の調査データによると、オンサイトのリテールメディアを提供している企業は、オフサイトのリテールメディアを提供している企業よりも、リテールメディアによる年間収益の伸びが高い傾向にあります。オンサイトのリテールメディアでは、ファーストパーティの顧客データをよりよく管理し、適切な顧客をターゲットにすることができるため、小売企業とブランドの双方にとって有益です。

図3. 小売企業が現在提供しているRMNの種類(左)およびリテールメディアの年間収益成長への影響(右)(回答者の割合)

(図内の訳、コメント「全体の半数以上の小売企業はオンサイト・リテールメディアを提供しており、オフサイト・リテールメディアよりも年間売上が高くなっている」)

対象:リテールメディア機能を持つ米国系小売企業194社

出典:Coresight Research

オンサイト・リテールメディアは、広告主がクローズドな環境で活動できる一方で、小売企業が提供するファーストパーティの顧客データを活用し、購買行動や履歴などの特定の条件に基づいてユーザーをターゲットにできるため、需要が高まっています。リテールメディアは、小売企業にとってはエンゲージメントの促進、ブランドにとってはロイヤリティの向上に貢献します。P2PIとCriteoが2022年5月に行った調査によると、ブランドや広告主のマーケティング目標を達成するために最も価値のあるリテールメディアチャネルはオンサイトであり、回答者の42%がそのように挙げています。

しかし、オンサイト・リテールメディアでは、顧客データの管理が容易である一方、ネットワークのリーチに大きく依存するため、小規模な小売企業にとってはあまり魅力的ではありません。広告掲載場所が限られており、広告が小売企業のウェブサイトやアプリへの掲載に限られるため、リーチが限定されてしまうためです。

オフサイト・リテールメディア

オンサイトのリテールメディアとは異なり、オフサイトのリテールメディアでは、小売企業のネットワークの外側に広告が掲載されます。消費者が無数にあるチャネルから購買ができるようになった今、このタイプのリテールメディアは、小売企業の広告機会の拡大とリーチの拡大を支援します。

例えば、食料品小売企業は、消費者が食品を購入する際にヒントとなるようなレシピビデオに広告を掲載するなど、消費者が買い物をし始める際に、サイト外の小売メディアを活用することができます。

オフサイト広告は、他のウェブサイト、アプリ、DOOH(デジタル・アウト・オブ・ホーム)ディスプレイなどに掲載することで、潜在顧客にリーチし、商品の認知度を向上させることができます。DOOH広告は、下の画像のように、一般の人が簡単にアクセスできる環境にあるようなデジタルスクリーンに表示されます。このようなネットワークを自社で構築できない場合は、サードパーティベンダーの技術的専門知識を活用して、強力なオフサイト・リテールメディア能力を構築することができます。

食料品店内のデジタルスクリーン

出典:Grocery TV

企業がオフサイト・リテールメディアを利用する際に直面する課題は、主に2つです。

・ 正しい視聴者をターゲットにすること:世界中でクッキーが廃止され続ける中、広告主が広告のターゲットを絞り込み、消費者の習慣を分析することが難しくなってきています。小売企業は、店舗にオフサイト広告を適切に配置することで、適切なタイミングで適切な消費者をターゲットにすることが不可欠です。

・オフサイト・リテールメディア全体の測定と評価:広告はオープンウェブ上の複数のチャネルに掲載されるため、それぞれのチャネルのROIを追跡することは容易ではありません。

当社の調査によると、オフサイト・リテールメディアを提供する小売企業の40%は、年間収益が5億ドル未満であることが報告されています。小規模な小売企業にとって、サードパーティプロバイダーと提携してオフサイト・リテールメディアを提供することは、リーチを拡大し、オムニチャネルの顧客獲得を可能にします。

統合されたリテールメディアエコシステムの確立

オンサイトとオフサイトのネットワークの統合エコシステムを構築した小売企業は、すべてのリテールメディアチャネルにシームレスな接続と最適化を提供し、オフサイト・リテールメディアを活用して自社サイトへのトラフィックを促進することが可能です。オフサイトとオンサイトの広告は、全体的な戦略の一部として接続する必要があるのです。

・2022年8月、Gopuffはオフサイト・リテールメディアを立ち上げ、リテールメディア機能の拡充を行いました。また、Epsilonが提供するCitrusAdと提携し、オンサイトとオフサイトのメディア機能を統合し、ブランドがオープンウェブ上でGopuffの顧客全体にタイムリーかつ関連性の高い広告をリーチできるようにしました。

・Instacartは2022年3月に広告商品群を拡張し、オフサイト・リテールメディアを追加しました。同社のオフサイト・リテールメディアは、Good Food Holdings、Plum Market、Schnuck’sといった中堅の食料品チェーンを主な対象にしています。

小売企業は、オンサイトおよびオフサイトのリテールメディアが、プラットフォーム上でどのように広告が機能するかについて、ブランドに対して透明性のある測定方法を提示する必要があります。両方のプラットフォームを提供するSwiftlyなどのサードパーティリテールメディアプロバイダーは、完全に統合された能力を構築する支援を行っています。

・2021年4月、米国の小売企業Dollar Treeは、Swiftlyおよび米国のテクノロジー企業Aki Technologiesと提携し、RMNであるChesapeake Media Groupを導入しました。リテールメディア事業では、CPGブランドがオンサイトおよびオフサイトのリテールメディアを活用し、ターゲット顧客にリーチすることができます。オンサイトのプラットフォームでは、ダイナミック広告プレースメント、スポンサードサーチ、商品レコメンデーションツールを使って商品の宣伝が可能です。また、クローズドループレポートによって、購買データとキャンペーン露出データを照合し、広告と販売データとのギャップを埋めることができます。

自社での構築か提携か?小売企業にとっての主な検討事項

RMNを立ち上げる際、小売企業が下すべき重要な決定の1つは、自社でネットワークを構築するか、サードパーティプロバイダーと提携するかという点です。

当社の調査では、リテールメディアを提供している小売企業の80.4%が、自社内での機能に加えて、サードパーティプロバイダーとの提携を行っています(図4参照)。RMNを自社で構築するのに比べ、社外企業との提携は市場投入のスピードを上げ、コストを抑え、メンテナンスをアウトソースし、俊敏性を向上させることができます。

図4. 小売企業によるRMNの構築および管理方法(回答者の割合)

(図内の訳、コメント「現在、5社中4社以上の小売企業が、RMNの構築及び管理を社外企業と提携して行っている」

選択肢、左から「社内構築及び提携」「提携」「社内構築」)

対象:リテールメディア機能を持つ米国系小売企業194社

出典:Coresight Research

自社で機能構築を行う

リテールメディア機能を自社で構築及び管理している小売企業は、5社中1社のみとなっています。このような小売企業は、サードパーティプロバイダーと利益を共有する必要がなく、リテールメディアを完全にコントロールできるため、高い売上利益率を達成することができます。

しかし、複数のチャネルで顧客データを構築及び測定し、ブランドパートナーに価値を提供するために必要なリソース、スキル、ツール、時間を持つ小売企業はほとんどありません。図5では、当社の調査で判明した課題上位を示しています。

図5. リテールメディアの自社構築・管理に関する課題トップ3(回答者の割合)

(図内の訳、左から「44.5%:投資コストが高い」「43.8%:定期的なアップグレード」「38.3%:市場投下までの時間が長い」)

対象:リテールメディアを自社で構築及び管理している米国系小売企業128社

出典:Coresight Research

提携による構築

多くの小売企業は、必要なインフラや専門知識を提供するサードパーティのテクノロジープロバイダーと提携し、立ち上げまでの時間を大幅に短縮しています。

・米国の専門店Michaelsは、リテールメディアテクノロジープロバイダーのCriteoと提携し、2022年2月にリテールメディアプラットフォームを立ち上げました。

ただし、提携にも課題はあります。調査によると、サードパーティのテクノロジープロバイダーとの提携に伴う課題のトップ3は、サードパーティが提供する自由度とカスタマイズオプションが不十分であるという点です(図6参照)。

図6. サードパーティのテクノロジープロバイダーと提携する際の課題トップ3(回答者の割合)

(図内の訳、左から「38.5%:ファーストパーティデータへのアクセス制限」「38.5%:自社に合わせたカスタマイズの難しさと費用の高さ」「34.0%:顧客体験向上の失敗」)

対象:社外企業との提携によりリテールメディア機能を構築・管理している米国の小売企業156社

出典:Coresight Research

リテールメディア事業を成功させるためには、適切なテクノロジーパートナーを選ぶことが最も重要なステップだと考えます。以下の図7では、テクノロジーパートナーを選ぶ際に留意すべき5つの基本的な属性を示しています。

図7. リテールメディアのテクノロジープロバイダーにおける主な属性

出典:Coresight Research

ケーススタディ:SwiftlyとTSMCの提携

Swiftlyは、FoodMaxx、Lucky California、Save Martなど複数の食料品店を経営する米国のThe Save Mart Companies(TSMC)と提携し、リテールメディアを通じたさらなる収益源の確立を支援しました。また、オンサイト・リテールメディアのプラットフォームを強化しながら、ユーザー数を増やすことを目指しました。

更には、TSMCのデジタルリテール体験とプラットフォーム全体での顧客エンゲージメントを強化し、測定可能で実用的なSKUレベルのインサイトを通じてブランドへのクローズドループレポートを提供しました。

この提携の一環として、Save Martは200以上の店舗でSwiftlyのリテールメディアプラットフォームを使用し、CPGブランドが洞察と分析に基づいて買い物客と即座につながり、リアルタイムで購買決定に影響を与えるプラットフォームを提供しています。

Swiftlyの報告によると、同社との提携により、TSMCのリテールメディアの収益は10倍に増加し、モバイルアプリのユーザー数は100%増、四半期ごとの来店者数は72%増、四半期ごとの消費額は62%増を達成しました。

WHAT WE THINK

広告ビジネスの拡大により、小売企業はEコマースに関連する不利な条件を相殺することができ、リテールメディア機能を持つことの重要性が浮き彫りになっています。この機会を生かそうとする小売企業は、測定可能で収益性が高く、拡張性のあるリテールメディア事業を自社または提携企業を通じて構築することに注力する必要があります。そして、テクノロジープロバイダーはこれまで以上に、小売企業のRMNの立ち上げ、運営、管理がうまくいくよう、あらゆる側面で支援することができます。

さらに、小売企業は提携ブランドのROASを向上させ、買い物過程の適切な瞬間に、適切なメッセージで適切な顧客にブランドを結び付けることを目指す必要があるでしょう。

調査方法

本レポートは、2022年8月にCoresight Researchが実施した小売企業291社へのオンライン調査の結果分析に基づいています。

調査回答者は、以下の条件を満たしています:

・米国に拠点を置く企業に在籍

・売上高240億ドル以上の百貨店、ディスカウントストア、Eコマースストア、食料品店、専門店、スーパーストア、ハイパーマーケットに勤務

・マーケティング、マーチャンダイジング、戦略立案・管理、イノベーション、サプライチェーン、テクノロジー、Eコマースのいずれかの職務

・社長、SVP、VP、シニアディレクター、ディレクター、シニアマネージャー、マネージャーなどの上級職

Coresight Researchカスタムレポートについて

Coresight Researchのカスタムレポートは、小売、テクノロジー、新興企業のエコシステムにおけるリーディング会社との商業的パートナーシップの一環として作成されています。これらのカスタムレポートは、小売、テクノロジー、および関連業界の主要なトピックに関する専門家の分析と独自のデータを提示し、パートナー企業がより多くの人々に、会社を取り巻く環境の調査という形でメッセージを伝えることを可能にします。

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