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WHAT’S INSIDE
本レポートでは、レジなし技術を採用しているAmazon Fresh、TescoのGetGo、Sainsbury’sのSmartshop Pick & Goのホルボーンにある店舗を視察し、そこで得られた以下の内容を含む主な考察を紹介しています。
・各店舗の取り扱い品目
・各店舗の決済方法とそのしやすさ
・レジなし店舗における競合店との差別化
・レジなし店舗の新しい業態で一番利益を得ている企業
KEY POINTS
・ 米国のAmazon Goが持ち帰り用の食品を中心に置いているのに比べ、英国のAmazon Freshはフルレンジのコンビニエンスストアとして展開しています。ロンドンのホルボーンにあるAmazon Freshの店舗では、「by Amazon」や「Happy Belly」などのプライベートブランド商品や、BoothsやMorrisonsのプライベートブランド商品をかなりの数取り揃えています。
・ホルボーンのTesco GetGoは周辺にあるレジなし店舗と比較して、新鮮な果物や野菜などのバラ売り商品を多く取り揃えています。
・Sainsbury’sは入退店時の際の利便性が低いことがネックとなっています。同社のSmartShop Pick & Goストアでは、メインの食料品アプリではなく別のアプリでQRコードをかざしてから入店する必要があり、ゲートから出る際にも、再度QRコードをスキャンする必要があります。一方のAmazon FreshとTesco GetGoでは、コードを生成し直すことなく直接店舗から出ることができます。
What We Think
3社の中で最も印象に残ったのは、Amazon Freshでした。同社は、特により便利な買物体験を提供することで有名で、食料品小売業としての歴史はまだ浅いものの、見事なサービスを提供しています。TescoやSainsbury’sのような既存企業はすでに大規模なコンビニエンスストアを展開していますが、その他小売業者も消費者も同様にアマゾンの今後の展開に注目する必要があるでしょう。しかし、アマゾンが食料品市場全体で大きなシェアを占めるには、相当な苦労が必要だと思われます。
What’s the Story?
ロンドンのホルボーン地区は、周辺にテクノロジーに精通した忙しいビジネスマンが多いことや、Amazon UKとSainsbury’sの本社があることも手伝って、レジなし店舗の拠点となっています。また、両社による「Just Walk Out(歩くだけ)」の店舗と並んで、英国食料品業界のリーダーであるTescoも同様の事業を展開しています。
これらのレジなし店舗は、人感センサーとAIを搭載したカメラを組み合わせ、人や商品をリアルタイムで追跡し、各店舗のアプリの決済機能により、購入金額が自動的に引き落とされる仕組みです。
本レポートではホルボーンにある、Amazon Fresh、Sainsbury’sの Smartshop Pick & Go、TescoのGetGoの店舗視察で得られた主な考察を紹介します。
Why It Matters
Eコマースの登場以来、自動決済は小売業における最も大きな変化の一つです。レジなし店舗は、買い物客にとってよりシンプルで迅速かつ便利なショッピング体験を提供し、小売業者にとっては人件費の削減、在庫や補充作業の合理化、顧客データへのアクセスと広告効果の向上が期待できます。これらの技術はパンデミック期間に、人々がレジの行列や従業員との接触を回避する方法を模索したことで広く普及しました。Juniper Researchによると、自動決済によって取引される総額は、2020年にはわずか20億ドルだったところ、2025年には世界で3870億ドルに達すると推定されています。
アマゾンは英国での自動決済分野で大きな動きを見せており、2021年3月に1号店となるJust Walk Out技術を導入した店舗をオープンし、その後12店舗をオープンしました。2024年末までには英国内で260店舗以上の同様の店舗をオープンする予定だと言われています。
アマゾンがレジなし店舗の分野で先行しているのは間違いありませんが、同分野に参入しているのは同社だけではありません。2021年10月にはTescoが初のJust Walk Out型店舗である「GetGo」をオープンし、その1カ月後にはSainsbury’sが同様の店舗「Smartshop Pick & Go」をオープンしました。一方、Morrisonsは現在、リテールテックのスートアップのAiFiと提携して、ブラッドフォードの本社で従業員向けのレジなし店舗をテスト中で、近々このフォーマットを拡大していく予定です。また、英国のAldiもこの流れに乗り、2022年1月にロンドンのグリニッジで初のレジなし店舗「Aldi Shop&Go」をオープンさせました。
英国のレジなし店舗視察
Coresight Researchチームは、ホルボーンにあるAmazon Fresh、Sainsbury’sのSmartShop Pick & Go、TescoのGetGoのレジなし店舗を視察しました。本レポートでは3店舗の主な特徴を、写真を交えて様々な考察を紹介します。
- Amazon Fresh
Amazon Freshは2021年11月4日、独自のJust Walk Out技術を導入した店舗を、ホルボーンにオープンしました。同店は2,500メートルの広さで、ハイホルボーンとチャンセリーレーンが交わる場所に位置しています。
ハイホルボーンとチャンセリーレーンの角にあるAmazon Freshの外観
出典:Coresight Research
店舗での観察記録
・買い物客は入店時にアマゾンのショッピングアプリを起動し、QRコードを読み取ります。そして、買い物が終われば、そのまま退店することができ、個々のアカウントに紐づく支払い方法から、購入代金が自動的に差し引かれます。これは、独立したアプリを使用しないとはいえ、米国のAmazon Goと同様のサービスです。
・米国のAmazon Goでは主に持ち帰り用の食品を扱っていますが、Amazon Freshでは、セルフサービスのコーヒーコーナー、基本の食品類、「あとで食べる」「今食べる」用の食品など、より充実した食品や飲料を提供し、お昼時や通勤時にその日の買い物ができるような品々を揃えています。
Amazon Freshのセルフサービスのコーヒーコーナー
出典:Coresight Research
・同店には「by Amazon」や「Happy Belly」など、アマゾンのプライベートブランド商品もかなりの数取り扱っています。また、以前から取引のある、イギリスのスーパーマーケットチェーンであるBoothsとMorrisonsの商品も一部取り扱われています。Morrisonsとは2016年2月に卸売供給契約を締結し、アマゾンの利用者は同スーパーマーケットチェーンの生鮮・冷凍商品を利用できるようになりました。同様に、2017年10月にはBoothsとも供給契約を締結しています。
左:Amazon Freshで販売されるアマゾンのプライベートブランド商品、右:Amazon Freshで販売されるBoothsの商品
出典:Coresight Research
・店内にはAmazon Hubのカウンターを設置し、Amazonで購入した商品の受け取りや返品にも対応しています。
Amazon Fresh内のAmazon Hubカウンター
出典:Coresight Research
2.TescoのGet Go
Tescoは2021年10月19日、初のレジなし店舗である「Tesco GetGo」をホルボーンにオープンしました。同店は、既存のTesco Expressに、イスラエルに拠点のある自動化技術のスタートアップTrigoの技術を導入し、改修を行ったものです。GetGoの展開は、2019年からWelwyn Garden Cityにある同社のキャンパス内にあるスタッフ用店舗での実験導入に続くものです。
ホルボーンのTesco GetGoの外観
出典:Coresight Research
店舗での観察記録
・Tesco GetGoでは入店の際にTescoのメインショッピングアプリを開き、スマートフォンに生成されたQRコードをかざします。
・Amazon Freshと比較すると、野菜や果物などのバラ売りが多く、カゴに入れたものをカメラが追跡するのは難しいようです(例えば、バナナを何本手にしたかなど)。
・この店舗は、Tescoの昔ながらの雰囲気を残し、英国の多くの消費者に馴染みのある従来のフォーマットを昇華させたもので、基本的なサービスは通常のTesco Expressの店舗と大差ありません。
Tesco GetGoの豊富な野菜・果物のバラ売りコーナー
出典:Coresight Research
・Tesco GetGoには、年齢制限の必要なタバコやアルコールなどの商品を扱う仕切りのある売り場があり、ここに入ると、買い物客はメインのショッピングエリアには戻れず、別の出口から出る必要があり、そこで従業員がIDを確認します。Amazon Freshにも同様のアルコール売り場があり、従業員がIDの確認をしますが、仕切られていないため、アルコールを手にした後でもメインのショッピングエリアに戻ることができます。
Tesco GetGoの年齢制限のある売り場の入り口を示すサイン
出典:Coresight Research
・Tesco GetGoでは、お得な会員向けの割引情報を棚に表示しており、アプリでClubcardアカウントにリンクされると、自動的に割引が適用されます。
Tesco GetGoの棚に表示される会員向け割引
出典:Coresight Research
- Sainsbury’sのSmartShop Pick & Go
Sainsbury’sは2021年11月29日、初のレジなし店舗「SmartShop Pick & Go」をホルボーンにオープンしました。同社は3年前の2019年4月からレジなし店舗への挑戦を開始していますが、その最初の試みでは、買い物客自身がアプリで商品をスキャンする必要がありました。しかし、それでは難しすぎるとの苦情が出たため、わずか3カ月でこの試みを終了しています。
そこで、SmartShop Pick & Goには、アマゾンのJust Walk Out技術が採用されました。米国外のサードパーティがこの技術を採用するのは初めてで、既存の店舗に後付けされるのも初めてのことです。
ホルボーンにあるSainsbury’sのSmartShop Pick & Goの外観
出典:Coresight Research
店舗での観察記録
・SmartShop Pick & Goでは、以下3つの理由から入店と決済の不便さを感じました
―まず、Sainsbury’sのメインアプリではない別のアプリを別に利用する必要があり、希望の支払い方法や住所などの詳細を再入力する必要がある点。
―2つ目は、来店時に店舗リストから利用する店舗を選択し、入店するためのQRコードを生成する必要がある点。Amazon FreshとTesco GetGoでは、店舗に関係なく、それぞれのアプリを開いてQRコードを生成するだけでよい。
―最後に、SmartShop Pick & Goでは、退店する際に再度QRコードを生成する必要がある点。Amazon FreshとTesco GetGoでは、何もせずに直接店舗を出ることができる。
・同店は、近隣のレジなし店舗や一般的なC型店舗よりも規模が小さく、わずか2本の通路で構成されています。
ホルボーンにあるSainsbury’sのSmartShop Pick & Goの2つの通路
出典:Coresight Research
・Tesco GetGoと同様に、SmartShop Pick & Goでも、年齢制限のある商品には仕切られた売り場が設けられています。
SmartShop Pick & Goの年齢制限のある商品用に仕切られた売り場
出典:Coresight Research
What We Think
・今回の店舗訪問で最も印象的だったのは、アマゾンの店舗です。ホルボーンのAmazon Freshは、充実した生鮮食品、プライベートブランド、食料品の基本的な品揃え、そしてコーヒースタンドや宅配便の受け取りサービスなどの付加価値を備えた魅力的な店舗でした。これは、より実用的なショッピング体験でよく知られ、食料品小売業での歴史がまだ浅い同社からすると驚くべき形態と言えるでしょう。
・Tesco GetGoも技術面では印象的でした。店舗体験という点では、同社の従来のExpress店舗と非常によく似たフォーマットで、機能的で品揃えもよく価格競争力もあるものの、目立ったショッピング体験ができるわけではありません。GetGoは、Tescoの既存業態を発展させたものであり、同社に慣れ親しみながらも、さらなる利便性を求める買い物客に向けたサービスだと感じました。
・これらの店舗は、英国におけるコンビニエンスストアのわずか一部に過ぎません。Tescoは英国で1,966店舗のコンビニエンスストアExpress(他にもOne Stop店舗を695店舗)を展開しており、Euromonitorによると、英国のコンビニエンスストアは全体で24,000店舗以上あり、その多くは人通りの少ない場所にあるといいます。
・TescoやSainsbury’sのような既存企業は、すでに充分な利便性のある施設を有しているため、アマゾンの野望は注目されるところです。しかし、このEコマースの巨人が食料品市場全体で相当なシェアを獲得するためには、相当な努力が必要でしょう。アマゾンは2021年末に、2024年末までに英国でコンビニエンスストアを260店舗オープンさせる事を目標としていると報じられましたが、当社が指摘したように、その達成でさえ既存のライバルに引き離されることになりそうです。しかし、仮に英国で260店舗を展開し、1店舗あたりの平均売上高が約300万ポンド(400万ドル)(300万ポンドは、Tesco Express、Sainsbury’sのLocalとThe Co-opの1店舗あたりの平均売上高の当社推定値)となれば、年間7億8000万ポンド(10億5000万ドル)の売上高となります。アマゾンの店舗がこのように急速に成熟したと仮定した場合、2025年の英国食品小売業者全体の売上高の0.4%を占めると試算されます。これは市場においてはごくわずかな割合ですが、日常的な小売支出や買い物客のロイヤルティにおけるシェア拡大を目指すための足がかりにはなると考えられます。